RECORD NO.002 · 前近代の世界
吟遊詩人
Minstrel
◇変質〜中世欧⑦ メディア・娯楽の交代
要約
本もラジオもない時代、物語と音楽とニュースは、歩く人間に乗って旅をした。吟遊詩人は記憶と喉だけで何千行もの物語を運んだ。
しごとの中身
宮廷や市場、街道の宿で、竪琴やフィドルを鳴らしながら英雄譚や恋の歌をうたう。演目はすべて暗記で、長い叙事詩なら一晩がかり。土地から土地へ渡り歩くので、よその街のうわさや事件を運ぶニュースメディアの役目も兼ねていた。
パトロンを得て宮廷に抱えられる者もいれば、放浪をつづける者もいた。物語の「配信者」であり「保存装置」でもあった。
道具
竪琴・フィドル記憶した数千行旅装各地のうわさ
きえたわけ
15c〜—印刷本が物語を紙で複製しはじめる
19c—識字率の上昇で「読む娯楽」が「聞く娯楽」を追い抜く
20c—レコードとラジオが歌の旅を電波に置きかえる
物語を運ぶ仕事は消えていない。歌本を売った演歌師、酒場を回った流し、そして今の配信者まで、器を変えてつづいている。
豆ちしき
ホメロスの『イリアス』も『オデュッセイア』も、文字に書きとめられる前は吟遊詩人たちが暗唱で歌い継いだ。世界文学の源流は、消えたこの職業の記憶力の中にあった。
この仕事の系譜



